なぜ依存症(アディクション)になるの?
依存とは「それなしではいられない」状態のことを指します。依存に陥っている人に対し、本人も周りの人も意志の弱い人間だからコントロールできないと思っていますが、意志が弱いわけではありません。また、依存症というのは、例外もありますが、気持ちがいいという快感が出発点となっています。
依存症(アディクション)の3側面
依存症(アディクション)は日本語で嗜癖ともいい、 “飲む、打つ、買うの三拍子”という言葉で表現されるように、お互いに関連したものです。特定のことにとらわれ、「はまる」、「溺れる」とか「抜け出せない」状態となります。依存症(アディクション)とは、人生に飢えや渇き(満たされなさ、空虚感)を感じる人がそれを埋めようとする行為であり、薬物乱用をはじめ暴力、ギャンブルなど多岐にわたります。おおよそ30種類ほどあり、大きく3つに分けられます。
依存症(アディクション)からの回復は、もう一つの新しい生き方の追求です。人生の再建という目的をもった毎日の取り組みが欠かせません。①の物質依存がある場合は、これを再使用しないことが当面の第1番目の目標となります。しかし、治療の過程では“モグラ叩き”のように他の物質依存や、②のパチンコなどのプロセス依存(行動に対する依存)、あるいは③の世話焼きなどの関係依存(人間関係の依存)の問題が浮かび上がってきます。図で示す① ② ③の依存が互いに重なり合っている部分は、一人の人が複数の依存対象を重ねて持つ場合を示しています。自分が無理な生き方をしていないか、心身の健康状態がどの程度回復しているかなどを物差しにして、“今日一日”と区切りながら、生活上の問題を解決していくことが大切です。
※ クロスアディクション(多重嗜癖)では、空虚感から同じようなメカニズムで病気が発症するので、同時に異なる2つ以上の嗜癖(依存)が合併することがあります。
依存症(アディクション)のメカニズム
自分の生き方に無理があり、生きているのが苦しくてどうしようもないとき、前頭葉皮質(理性)を麻痺させて、大脳辺縁系(情動)を解放したくなります。つまり、自分を苦しめている問題や環境を冷静に判断し解決しようとせず、酔った勢いやカラ元気を安易に手にすることで真の問題解決が先送りされます。
もしかしたら依存症(アディクション)かも
以下のようなことに心当たりはありませんか? 依存症は次第に進行し問題が大きくなります。
- 対象にのめり込むことで気分が大きく変化する
- 習慣化し、エスカレートしていく
- 意志のコントロールが効かない
- それがなければ自分が保てないような感じにとらわれる
- 不利な結果が出ていてもやめられない
依存症(アディクション)の重症度
あなたはどの段階にあてはまりますか?チェックしてみましょう。
第2段階から病院での治療や自助グループの活用が必要となります。
以下のページを読み進めて、それぞれの依存症について理解を深めていきましょう。
依存症(アディクション)から回復するまで
依存症者の治療には、2~3か月間の解毒治療とあわせた教育プログラムが必要です。断酒や断薬の動機づけを深め、心理教育や認知行動療法、ストレス対処を工夫するためのリハビリテーションがおこなわれます。入院中であれば医師、看護師、ソーシャルワーカー、作業療法士、臨床心理士ら多職種によるチーム医療を行ない、地域資源が活用ができるようにしていきます。
各段階の特徴
大切な導入期:病気と同定された人の治療への導入段階
- 会社の欠勤や何らかのアルコールや薬物に起因するトラブルがあったとき、身体の病気が重症化する前の介入(初期介入)が望ましい。
- 相談にきた家族は依存症の特性の特徴を知るため、個別カウンセリングや家族教室などを紹介し、関連問題への対処を身につける。
- これまでは、精神・身体合併症の急変や暴力、飲酒運転、そして別居、離婚などの家族内危機があった場合の介入(危機介入)に至るまで放置されることが多かった。
- 依存症が進行するにつれ、肉体・精神の健康をはじめ、その人の家族や仕事、財産などが失われていき、依存症による本人・家族の孤立やうつ状態が生じていた。
脱習慣期:新しい生活習慣を作る段階
前期(離脱期):
- アルコールや薬物の強迫的、連続的使用の中断から、種々の離脱症状が現われる。
- 離脱症状の管理をするときに、アディクションに関連した身体合併症の治療や社会生活上の困難への相談と支援を並行しておこなう。
後期(渇望期):
- 初期の離脱症状が消褪して体調が良くなると、強いアルコールや薬物への渇望が起こる。
- 現状や将来への不安、焦燥感を伴ない不平・不満が多くなり、また、落ち着きを欠き短気で怒りっぽいため、極端な言動によって周囲を振りまわすことがある(後期の離脱症状)。
- 治療プログラムに導入し、(個人や集団での)精神療法、運動療法、作業療法等をおこない、生活リズムの改善、体力の回復を図る。仲間のなかで自分の病気と向き合うように促す。
- いままでの自分のやり方ではどうにもならなかったことを認めると、別の生き方を選ぶことが促される。例えば、AAや断酒会という自助グループに参加し、これまでの自分の生き方を変え、人間関係を変えていくことから、回復という新しい人生が開かれる。
断酒・断薬継続期(リハビリテーション):アルコールや薬物のない生活習慣を確立する
- 対人関係での嫌な気分、空腹感、疲労、そして抑うつ、不安感、心気状態などが物質の再摂取につながりやすいことに気をつける。
- まわりが暗くて明かりの見えないトンネル現象への対応と、物質使用の快感をからだが忘れないので、時々みられるスリップ(再使用)したときの対応をどうするかが難しい。
- 困った時に相談できる人を見つけておくことが役立つ。
相談者の多くはご家族の方
ひと口に依存症(アディクション)といっても、これだけ違いがあります。
アルコール健康障害 |
薬物依存症 |
ギャンブル依存症 |
|
---|---|---|---|
物質や行為への |
◎ |
× |
〇 |
依存症の |
物質依存 アルコール |
物質依存 大麻・危険ドラッグ・ |
行動 (プロセス) 依存 パチンコ・パチスロ・競馬・ |
当事者 |
中年男性が中心だったが |
若者 ~ 中年 |
若者 ~ 中年 |
現われる問題 |
からだ 身体疾患・二日酔い・無断欠勤・ |
社会的逸脱 薬物犯罪 |
お金 借金・多重債務・貧困・退学・ |
主な対応場面 |
医療 |
司法 |
債務整理 |
相談しやすい |
お酒で悩んでいませんか? お酒で困っていませんか? |
薬物の問題で困っていませんか? 秘密は守ります。 |
パチンコやギャンブルにまつわる |
相談者 |
配偶者・ 親・成人した子・ |
親がほとんど |
配偶者・親 |
社会情勢 |
飲酒天国。酒に強いことをよしとする文化。酩酊への社会的許容度も高い。その一方、日本人の半数は体質的に酒に弱い。依存症に対しては、病気ではなく性格の問題との偏見がある。 |
違法薬物使用者は犯罪者として社会から排除される風潮がある。依存症に対しては、病気ではなく性格や素行、親の育て方の問題との偏見がある。処方薬に関しては認識が薄い。 |
ギャンブル大国。駅前にパチンコ屋があり、公営競技はネット投票もできる。賭博への許容度はアルコールより低い。依存症に対しては病気ではなく性格や素行の問題との偏見がある。 |
※「アルコール・薬物・ギャンブル 家族が望む<依存症支援>に関する要望書」(提言機関:特定非営利活動法人 ASK(アルコール薬物問題全国市民協会) 特定非営利活動法人 全国薬物依存症者家族会連合会(やっかれん) 一般社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 特定非営利活動法人 全国ギャンブル依存症家族の会)を参照し作成。
依存症問題について最初に相談するのは、その本人ではなく困ったご家族です。依存症による悪影響のため、日々ご家族は胸を痛め、疲弊していきます。家族の相談支援をおこなうことにより、ご家族自身が健康な考え方や生活を取り戻し、そのことによって依存症者の治療や回復へとつながっていきます。依存症の世代間連鎖が大きな問題としてありますが、これを防ぐことにもなります。
家族自身が自分の健康と主体性を取り戻し、依存症者本人が自分のアルコール等の問題に気づくことができるよう適度な距離を保つことが必要です。また、配偶者や親の「過干渉、非難、排除、無視」など陰性感情に包まれた態度から余計に依存症がひどくなります。まず、家族自身が一人で悩むことなく、適切な相談機関を知ることが必要です。