まずはご相談を
家庭内のアルコールや薬物・ギャンブル等の問題にお困りではありませんか? 家族に大きな負担がかかり、見えない疲れ、悲しみ、怒りがたまっていきます。本人を憎み、責め、攻撃することになっていませんか。
依存症(アディクション)があると、本人ばかりでなく周りにいる家族が、病気の状態に巻き込まれ、平常心をなくして不安やうつ状態を伴なってきます。相手が思いどおりにならないとき、家族は世間体や将来の心配などを理由に相手から離れられなくなります。
家族自身が自分の健康と主体性を取り戻し、依存症者本人が自分のアルコール等の依存症問題に気づくことができるよう適度な距離を保つことが必要です。また、配偶者や親の「過干渉、非難、排除、無視」など陰性感情に包まれた態度から余計に依存症がひどくなります。まず、家族自身が一人で悩むことなく、適切な相談機関を知ることが必要です。
イネイブリング(依存的行動の手助け)になっていませんか?
ご家族は本人の依存的行動に関連した事故や失敗などを、自分でも気づかないうちに、あるいはやむを得ず手助けしていることがあります。例えば、借金の肩代わりをする、欠勤の電話、お酒を代わりに買ってくる。さらには依存的行動の問題についての説教、見つけた酒を捨ててしまう、酔って壊した物を本人に代わって片付ける、・・・など。後始末だけをしていると、本人は自分の依存的行動の問題に気づくことができません。このようにイネイブリング(依存的行動の手助け)の役割を負わされてしまう親や配偶者など、本人と離れられない方をイネイブラー(支え手)と言います。依存症からの回復には、家族がイネイブリングをせず、本人とのあいだに境界線を引き距離をとる必要があります。(家族用テキスト「幸せを取り戻しましょう」を参照してください)
最近の依存症に対する取り組み
ハーム・リダクション(有害さを減らすこと)
通院や自助グループへの参加が安定してできている維持期に入ったとしても、本人や家族は再使用が意志の問題ではないことをよく知っておくことが大切です。依存症者が再使用したことから自分を責め罪悪感を引きずり生活破壊に至ることも稀ではありません。
ハーム・リダクション(有害さを減らすこと)という取組みが1980年代以降に欧米で進みました。ハーム・リダクションとは、「HIV感染を含めて、薬物に関連する個人、コミュニティ、社会に対する害の低減のための、政策、プログラム、サービス、行動の一式をいう。ハーム・リダクションは注射による薬物使用者とその性的パートナー間でのHIV感染予防の鍵である」(WHOヨーロッパ地方事務局のサイトより)と、感染症対策から始まっています。現在、有害な薬物使用を厳罰により取り締まるのではなく、「その使用により生じる健康・社会・経済上の悪影響を減少させることを主たる目的とする政策、プログラムとその実践」(NGO harm reduction international :HRI)という立場で、日本でも敷居の低いプライマリ・ヘルスケアの提供、積極的な啓発活動、薬物乱用者のエンパワメントなどを積極的に行うことが大きな流れとなってきました。
そして、覚せい剤などの中枢神経興奮剤への依存を標的とする統合的外来治療プログラムとしてマトリックスモデル(Matrix model)があります。2006年に薬物依存症者の治療を積極的に実施しているせりがや病院が、このプログラムを参照してSMARPP(せりがや覚せい剤依存再発防止プログラム)を導入しました。治療の継続こそが薬物の再乱用の防止に役立ちます。「ごほうび(トークン)療法」などの認知行動療法を積極的に行い、依存症治療経験の乏しい援助者でも、患者と一緒にワークブックを読み合わせるだけで治療セッションを進めることができます。目標は話し合いにより依存症当事者が決め、薬物を再使用しても治療・回復の場から排除することなく、援助は打ち切らないことを重視します。
動機づけ面接法
依存症者本人が治療への動機づけを持ちにくいことに対し、「動機づけ面接法」が臨床の場で活用されるようになってきました。この面接法は使用したい気持ちと使用したくない気持ちの両方に心ひかれて迷っている両価性に働きかけて、柔らかく断酒・断薬の方向に導いていきます。「変化の5段階」があり、それぞれの段階は①前熟考期、②熟考期、③決断期、④実行期、⑤維持期に分けられます。前熟考期には情報を収集し意識的にアルコールや薬物使用の結果を見直し、周囲への影響を再評価します。熟考期には健康・仕事・家族の幸せなど、自分にとって価値あるものを飲酒や薬物のせいで失ったことに気づき、「気づき」が決断を促し、自分の責任で断酒・断薬を選ぶことを重視します。
動機づけ面接法と変化の5段階モデル(アルコールの場合)
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本人の感情・思考・認知
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家族の役割、できること
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前熟考期
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- 問題はないと考えている
- 問題に気づいていない
- 問題の原因は家族や仕事にあると考えている
- 飲酒の問題であるとは知らない
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- イネイブリングをやめる
- 家族療法を受ける
- 保健所や専門医療機関と連絡を取る
- 心配な気持ちを伝える
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熟考期
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- 問題はあるが大したことではない
- 病気ではあるが、依存症ではない
- やめたい気持ちはあるが、どうせ止められない
- やめると良いことがあるかも
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- 問題を正しく伝える
- 客観的な状況を説明する
- 突き放しはしない
- 治療に協力することを繰り返し伝える
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決断期
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実行期
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- 断酒開始、行動する
- 通院、入院
- 自助グループへの参加
- 新しい習慣を身につける
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- 励ます
- ほめる
- 家族教室へ参加
- 自助グループへの参加
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維持期
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- 自助グループ、友人
- 通院、抗酒剤の服用
- 飲酒欲求のコントロール
- ドライドランクに気をつける
- 断酒の指針、12ステップの実践
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- 相手との境界線を引く
- スリップの予想と覚悟
- 依存しない
- 家族関係を創る
- 自分の幸せに責任をもつ
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CRAFT
CRAFT(コミュニティ強化法と家族トレーニング Community Reinforcement And Family Training)は、問題を本人に直面化させるのではなく、治療を受け入れやすい環境を作ることによって、本人自ら治療を選んでもらうことを目指します。大きなポイントは家族のコミュニケーションを変えることであり、さらに、家族自身の安全を図り、家族が今よりも楽になれることを目指しています。
家族教室に参加してみましょう
家族教室は病院やクリニックばかりでなく、保健所等でも実施されています。開催頻度は2週に1回か1か月に1回が多く、治療を目的としたミーティングよりも少ない回数で意義をもちます。目的は、家族が物質依存症あるいはアディクションについての知識と回復につながる対応を学ぶことです。学習だけではなく、参加者が体験や感想を述べお互いに交流する時間をとり、家族自身の不安とあせり、怒りなどの感情を表出し、つらい気持ちをオープンにすることが、孤立した状況から抜け出す力となります。
依存症者が家族内にいると、家のなかでは常に圧迫感と緊張が高まっており、治療開始の時点ではお互いの信頼関係が失われています。必要によっては双方の同意を得たうえで、家族関係にある夫婦、親子、同胞などが同席する家族療法を設けることが、問題を整理し治療を進展させるのに役立ちます。
相談をすると気持ちが楽になります!早めに相談してみましょう!